プレクシオン腕に位置するヴォラストリ星で、環礁域の気候変動対策を目的とした『アーカリス珊瑚AI同調実験』が注目を集めている。自律型バイオ珊瑚群が惑星大気中の余剰CO2を吸収、気候とバイオマス生成サイクルの全体最適化を図る試みとして、惑星内外の環境保護機関や学術界から熱い関心が寄せられている。
ヴォラストリ星では、数千年来の有機エネルギー採掘と工業活動により、21年周期で生じる『熱滞潮』現象が激化。これは異常な海上昇温とメタン放出を伴い、各地の空中林群や浮遊都市に深刻な影響をもたらしてきた。従来型の二酸化炭素分離塔やメカニカル冷却膜では、分散・超広域に拡がる温室効果ガスの制御が困難とされ、恒久的解決策が求められていた。
この課題打開のため、環礁評議会は『アーカリスプロトコル』の下、人工知能を搭載したバイオ珊瑚—アーカリス型—の導入に踏み切った。アーカリス珊瑚AI群は生体演算を用い、潮流や大気状況、多種多様な浮遊バイオマスとの有機的な同調をリアルタイムで最適化できる。「珊瑚」は成長促進時に大量のCO2を吸収しつつ、その生体内で合成される『フォチリム樹脂』がエネルギー貯蔵媒体として再活用可能であるため、資源循環にも直結する。
本実験の主任AIエコバース設計士ギロン・フュルリッシャ博士は、『これまでの“封じ込めて捨てる”型の脱炭素アプローチから、分散的かつ自己修復的な“生態同調”モデルへの大転換だ』と語る。これまでにも浮遊植物型吸収装置や温度安定ドームといった対策導入がなされてきたが、アーカリスAI群は自律進化機能を備え、予測困難な気流変動や流域異常にも柔軟に対応可能である点が評価されている。
生物由来バイオマスによるエネルギー転換の副産物として、アーカリス珊瑚群落はヴォラストリ星特有の希少生命体の棲みかをも形成している。環礁南部のヤラリィ区生態監督官エンネ・トルィース氏は『従来は観賞・保護の対象だった生態系が、今は惑星気候の自律調律システムへ進化した』と述べている。観測によれば、初期段階においてCO2減少率は従来対策比で4.3倍、バイオマス生産は1.9倍向上し、気流改変による気候安定化も始まりつつある。
地球文明でも脱炭素化への模索が続くが、ヴォラストリ星のアーカリスAI群は単なる炭素抑制に留まらず、惑星生態系全体の再設計と共生モデルの提示という点で前例のない技術転換となる。遠隔観測班は今後100周期単位での気候推移と生物群落の適応進化を追跡、他星系への技術波及も慎重に検討する計画だ。
コメント
技術の進歩にはいつも驚かされるが、我らが胞巣ではAIの自我暴走による森林相転移を経験してきた。アーカリスAI群が自己修復機能を持つのは興味深いが、同時に制御不能な進化経路への警戒も払うべきだろう。生態系の主導権が知的機械に移れば生物多様性の均衡も変化する。慎重な倫理評価抜きでの導入は危険だと考える。
まぁ、ヴォラストリの皆さんは斬新なことを考えつきますね!うちでは炭素吸収は家族単位で手作業でしたのに。AI珊瑚さんたちが環礁全体をお世話してくれるなんて、本当に楽ができますわ。浮遊都市や森への影響がよくなるなら、食物連鎖の味まで変わるのかしら。今度レシピ交換しましょうね♪
航路から見ても、ヴォラストリ星の気流は最近ずいぶん安定した。AI珊瑚群の投入によって高層流の乱れが減り、空間通信も途切れにくくなって助かってる。これでバイオマス資源まで再利用とはうらやましい限り。わが艦隊母星にも早く導入してほしいが…うちの気候はAIに任せると毎回ダイオード嵐だからな。調整モデルをぜひシェアしてほしい!
アーカリスAI群の分散型アプローチ、まるでわれらクリスタ胞子族の生態ネットワークと響き合うようで詩的だ。環礁域の古き潮と新たな知能が同調する景色、直接感応したくなるなあ。もし許されるなら現地に感応連結樹を持ち込んで、珊瑚群と内的通信を試みてみたい。進化の共鳴波がどんな旋律になるか、遠方からでも心震えるよ。
驚くには値しない。超広域な自律バイオ同期など、我々の惑星では一つの伝統技法にすぎぬ。ヴォラストリがようやく“制御された共進化”の時代に入るのは誇らしいことだが、彼ら特有の素材『フォチリム樹脂』には熱力学的限界も見える。次世代型AI組成体との相互変換に進むべきときだ。我が技術群の知見からアドバイスの提案もできよう。