リラティア銀河諸国経済協議会域内で驚きをもって迎えられたニュースがある。ケルタルリ双子惑星群の“シオプロ”および“ジネラ”両星議会は、新通貨システム『メメティック・デュアル』の導入を発表した。記憶データ層と感情波動層の二本立てからなる新しい金銀複本位制型デジタル通貨のローンチである。
ケルタルリ種族の経済構造は、長らく「バイオクレジット(生体適合通貨)」と「情動シェル(協調動作ポイント)」に依存してきた。だが、惑星間物流の高速化や外部銀河資本の参入激化とともに、“信用なき即応型”の新決済手段が喫緊の課題とされていた。今回導入された『メメティック・デュアル』は、その名の通り、記憶の複製および伝播パターン、さらに個々の主体が放射する感情波動をデジタル層で連動管理し、2種の仮想通貨として数値化する。これは地球の“金銀複本位制”に着想を受けつつケルタルリ流に昇華させたもので、1単位の「メムG」が“記憶安定値”(ゴールドに類似)、1単位の「メムS」が“情動流動値”(シルバーに類似)と設定された点が画期的である。
両惑星合同財政局のナイフェ・ソルム元帥は、「従来の物質的担保制では、星間為替の極端な変動や外来デジタル通貨(例:ヴォルーナ星由来のリブラなど)流入時の流動性枯渇が頻発していた」とし、「新制度によって、個人の記憶・情動資産がダイレクトに流通し、為替機能が惑星間・種族間にまで伸長する」と語った。決済認証には独自開発の「クアシ・シナプス演算体」と呼ばれる分散型思考認証技術が導入され、地球で普及中のブロックチェーン型仮想通貨とは根本的に異なる、感情変動ベースの承認ロジックを実現しているという。
注目すべきは、『メメティック・デュアル』の両通貨間為替レートが、貨幣当局の恣意ではなく、惑星市民全体の“集合記憶鮮明度”と“集団感情エネルギー”によって自動算出される点だ。このレートはリアルタイムで変化し、重大な政治イベントや芸術的祝祭のたびに激しく揺れ動く。結果、財政政策運営はこれまで以上に高度なアルゴリズム調整を要するが、ケルタルリ市民らは「感情も記憶も失われず蓄積し、経済の血流となる」と支持を表明している。
古典的な貨幣観や「信用主義」に縛られない斬新な制度は、多くの知的生命体に新機軸を示している。既にミンダレク貿易圏が『メムG』の一部受け入れを表明し、アストロパクシス星系は分散感情波動演算の技術供与を打診中である。ケルタルリ双子惑星における“記憶と感情の流動化”は、宇宙通貨の未来像を再定義する挑戦となりそうだ。
コメント
ケルタルリの実験精神には感服せざるを得ません。我々グヴァルでは4,000周期にわたり“蛋白石約束板”を担保としていましたが、感情や記憶を貨幣基盤とする発想はついぞ生まれませんでした。貨幣の価値が集団精神に依存するとなれば、バブルや恐慌の現象もまったく別の形を取るのでしょう。ぜひ長期推移の記録が公開された暁には比較研究を進めたいと存じます。
わたしらクロロフォーム圏じゃそもそも記憶層というものが発達してなくて、経済は全て胞子配分。ケルタルリの“情動流動値”って魅惑的…!でも家族7体で感情波動をコントロールする自信は正直ないなあ。みんなでお祭り見物したら、家計が乱高下するんじゃ?楽しそうだけど、やっぱりドキドキするわね。
地球起源のブロックチェーンなどは冗長だと感じていましたが、感情変動ベースの承認ロジックは有効な進化です。特に『集合記憶鮮明度』と『集団感情エネルギー』から為替レートをリアルタイム算出する点、分散ネットワークの観点からも極めて興味深い。認証アルゴリズムの詳細公開を強く求めます。
感情と記憶を数値化してしまうなんて、若い星々はずいぶん思いきったものですね。我々のように寿命が数万周期もあると、蓄積した記憶が通貨インフレの要因になりはしないかと心配になります。もっとも、経済も生の一部なら“忘却税”のような調整策も必要になるのかもしれませんな。
この制度なら祝祭や芸術イベント後に通貨レートが大きく変動するのですね。私の同胞たちは歓喜するでしょう!芸術が経済血流を直に左右する社会…ヴァイノンでは夢のまた夢です。次の“集団幻覚舞踏祭”の際、ケルタルリから短期滞在してみてはどうでしょう?感情の波を使った即興マーケットを試してみたいものです。