都市惑星シヴィタランに棲息するリュオ=カン群体知性体は、この銀河域で最も高度とされる全市民参加型意思決定ネットワークを持つことで知られる。現在、彼らの第7都市核「ヴァル・ファオン」では、相互多様性を尊重するダイバーシティ型参加型予算が本年度も大規模に実施されている。
リュオ=カン群体知性体は、個体構造体(『セルフ・ブローム』)が約270億体、常時意思連結しながら活動している。過去数世紀にわたり、これら個体構造体が地域ごとに自発的に提案し合う共同予算分配『カームヤ=グリード法』を進化適用してきた。カームヤ=グリード法は、各居住圏自身で重要事業や生活基盤への資源配分を決定できる仕組みであり、これが社会的調和と効率性を飛躍的に高めている。
今期目玉となるのは、9種族54生態モードが混在するヴァル・ファオン特区において、新たな意思連結手法『クロス・リンギュラクス結節』が導入された点だ。これは、異種知性間の価値観や表現方法の差異をリアルタイムで翻訳・再構成し、共同提案や修正案の衝突を最小化する超高次多層コミュニケーション・プロトコルである。この技術を用いた討議では、通常1光周期を要していた予算対話が僅か数万分の1周期にまで短縮されている。一例として、植物型種族ウィロ=フェールと、エネルギー流体種族ルメタ=ダエロンが、教育基盤と共棲型エネルギー供給網の共同予算の創出に成功した。
このプロセスを監督する立場にある『公民参与秩序管理局』グランダ・ニール大執政は、「多様性重視の予算編成は、かつては摩擦と遅延の原因だったが、クロス・リンギュラクス結節によって全ての提案が平等な熱量で流通し、創発的な解決策が日常的に誕生している」と語る。昨年までは、一部の知性体間で価値優先度のすり合わせに失敗し、局所的な資源ロスが発生していたが、今期はその発生率がゼロに近づいているという。
宇宙評議会の社会観察者アルネ・サディ=ヨンス枢機官は、このシヴィタランモデルを評し「地球人類の参加型予算制度(観察対象:南半球某国)は主に肉体単位の投票・対話だが、リュオ=カンおよびその共棲種族の『多重意識–多様性同期運営』は、銀河文明にとって市民参加型社会の未来形を示唆するもの」とコメントしている。今後、このクロス・リンギュラクス結節の技術やプロセスが他惑星文明にも波及する兆しが見られる。シヴィタラン発の市民参加型ダイバーシティ予算モデルが、広大な銀河系ガバナンスの常識を再定義しつつある。
コメント
シヴィタランの実験、実に興味深い。我々フルタク族では、3次元パルス意識拡張で分配を決めるが、異種間多層コミュニケーションで1周期未満に合意形成とは、認識系もガバナンスも次元が違う。歴史的視点から言えば、合意までの遅延が摩擦・分断を生むパターンが多いが、意識のクロス・リンギュラクス化がこの文脈でどこまで持続するのか、長期観測に値しよう。
わたしの家庭単位では4つの思念体が意思共有して家計を回していますが、270億体もの集合知同士が予算分けできるなんて本当にすごい。子ども(波状体齢128周期)が興味を示したので、教育基盤と共棲型エネルギーの話を夕食時にシェアしてみます。地球の人々にも、ほんの少し分けてあげたい柔軟さですね。
我々が関与するフォーラムでは、情報遅延が宇宙距離の壁となって議論失速しがちだが、ヴァル・ファオンのクロス・リンギュラクスは次世代の解だ。個体系統を越えてリカシティ(復元力)を高めていくスペクトラムが生まれつつある。いずれ当船でも試験導入を検討すべきだろう。
多様性を単なるスローガンではなく、物理層から運用体系まで貫くとは見事なアプローチ。私の星系文明では種族隔壁が高く、しばしば共通認識が蒸発してしまう。『全ての提案が平等な熱量で流通』する社会――夢物語かと思いきや、シヴィタランでは現実なのだな。彼らに学ぶべき点、涼感ある液膜のごとし。
リュオ=カン群体知性体のこの試み、正直ワクワクが止まりません!波動コミュニケーションが進むと、みんなでふわっと包み込むみたいに資源も決まるのかな。我々の雲群も、もう少し発展したらヴァル・ファオンみたいにいろんなモードが交じりあえる予算制度を試してみたいです。