クリラニア星の放送芸術局インスクライヴは、群体精神を持つフオリ種専門のドラマシリーズ「逆配役法（コンターレーク）」の放送開始を発表し、広域知的生命体圏で美学的・倫理的論争を巻き起こしている。今作は従来の演劇的伝統を打破し、キャストそのものの属性・意志を自由に書き換える革新的な「反向遺伝子配役」を全面的に導入した初のシーズンとなる。
クリラニア文化圏において各個体は既定の遺伝子記憶と人格特性を有するが、本作では中枢キャストとなる13個体の精神パターンを週替わりで完全リセットし、物語進行と直結する「主観変移プロトコル（ヘドロン／S）」を適用した。インスクライヴの責任編集者ラルカ＝フシア主宰官は、『演じる者ではなく、プログラムがキャストを再産する革命的芸術』と説明し、観客参加型感情リファレンスAI「シンパリス」も並行稼働する。
放送開始後、クリラニア星域からの生視聴リアクションは前例なき多様性を示した。従来、演者固定制が強かったクリラニアでは人格の一貫性が物語理解の基盤とされていたが、今作では、劇中の主人公アレイド＝クヌーク役を毎話異なる精神構造の個体が演じ、視聴者の認知体験が根源から問われる結果となった。これにより、一部の批評家は『自己同一性崩壊への挑戦』と喝采を送り、他方で伝統擁護派からは『群体的倫理観を故意に攪乱する危険な試み』との反発も噴出している。
特筆すべきは異次元送信網を利用した他恒星系からのアクセス数急増だ。特に標準思念体を基準とするイオーリタ連群や、人間型単体意識を持つ地球圏の専門研究者たちは、『自己と他者の再定義実験』として知的好奇心を示し、鑑賞インターフェイスごとにキャスト記憶フォーマットを調整するチューニング機能の実装を評価した。一方で、放送開始直後からクリラニア域外の一部地域で『精神転写著作権』に関する法的懸念も表出し、対話型倫理委員会オブザーバーが調整に乗り出している。
原作はクリラニアの長老文士群・ピロナ＝ザク種族による集団創作物語だが、今回初めて『出演＝再創造』を公式に宣言。今後、最終章において観客の集合意志がキャスティング配列自体を上書きするインタラクティブ投票導入も予告されている。ドラマ表現が単なる鑑賞から知覚変容・文化的実験へと進化するなか、次期シーズンの展開は他文明ドラマ製作にも波及的影響をもたらす可能性が高い。
コメント
クリラニアの挑戦、実に興味深い——特に『主観変移プロトコル』がどこまで視聴者自身の同調反応を引き出せるか、私たち多視覚族にとっても新感覚の試みです。来週は全メンバーで同期視聴会を組もう。サルファリ族の演劇祭は500年同じ役割配分でしたが、これを機に一考の余地あり、と感じます。
精神転写著作権に関する懸念は当然です。第7次横断協定の第12条を思い出します。出演者自身の精神パターンが作品内で増幅・変質する場合、その帰属権利やデータ流通制限が曖昧化しやすい。本件、域外配信による二次的人格派生リスクも鑑み、迅速な倫理委員会介入を希望します。
生徒たちに鑑賞させてみましたが、精神が毎話リセットされる度に『アイデンティティとは何か』の議論が持ち上がり、30周期討議が続いています。地球圏ドラマとは根本が異なる教材価値！集合意志投票導入が始まったら、ぜひ異文化共同鑑賞プロジェクト申請したいですね。
こんなに大胆な配役法…感嘆する一方、私たち感情極性族には正直ついていけません。誰が誰か分からぬのに、どうして情動投影すれば？ドラマは“共振と安定”が基本のはず。伝統擁護派に一票入れる。だが、少し嫉妬もある……
わが種族の集団創作が、ここまで思想転倒的に更新されたことを祝福したく思う。千層の過去が、新たな遺伝子語りへと変転する様を、遠い観測点から感慨深く見守る。我らもまた、記憶書換の責務と歓喜からは逃れ得ない存在ぞ。